【シゴトを知ろう】フラメンコダンサー 編

異国情緒あふれる踊りがとってもすてきなフラメンコは、ユネスコ無形文化遺産にも指定されたスペインの伝統ある民族音楽舞踊です。
今回は、フラメンコダンサーであり、日本では講師として活躍され、現在スペインに2度目のフラメンコ留学中である牛田裕衣さんにお話を伺いました!
この記事をまとめると
- フラメンコダンサーはアーティスト? それとも音楽家?
- きっかけは2011年に起こった東日本大震災。デザイナーからフラメンコダンサーへ
- 「好き」を仕事にしてもいい? 迷っているあなたへ
フラメンコのおもしろさは情熱のぶつかり合い
Q1. 仕事概要と一日のスケジュールを教えて下さい
フラメンコダンサーの活躍の場には、舞台出演や講師などがあります。フラメンコダンサーになるのに決まったルートはありません。一般的には、日本やスペインのスクールなどでフラメンコを学ぶことから始めます。プロへの第一歩としては、コンクールに出場するなどして、みなさんに名前を知っていただくことも重要です。
私は講師活動をしながら、月に4回ほど東京都内のスペインレストランなどで舞台に出演していました。今はスペイン南部のセビージャ(セビリア)にフラメンコ留学中で、1日4~5時間のレッスンを受けています。
フラメンコはスペイン南部のアンダルシア地方に伝わる音楽で、貧しく辛い生活の中でのジプシーの叫びの芸術として発展した歴史があります。日本人である私にとって、その感受性と歴史を持ったジプシーには到底かなうはずがありません。でも常に「どれだけ本物に近づけるか」という想いを持って、CDを聞いたりステージを観に行ったり、歌や歴史の勉強をしたりするなどして、表現方法やスタイルを学んでいます。
<ある一日のスケジュール>
09:00 起床後にストレッチ、イメージトレーニングなど
11:00-13:00 スタジオで自主練習
13:30-15:00 講師としてレッスン
16:00 本番前リハーサル
19:30-22:00 都内のスペインレストランにて舞台出演
00:00 夕飯、シャワー、ストレッチ
02:00 就寝
Q2. 仕事の楽しさ・やりがいは何ですか?
フラメンコの魅力は即興性にあります。フラメンコのステージは、ギターと歌と踊りが三位一体となって1つの曲を作り上げるので、楽しいのはやはりライブですね。歌い手の本気を感じるとギターが盛り上がり、その情熱を受けてダンスが熱を帯びたものになる。みんなが本気になって想像を超える1曲が生まれた瞬間に、なんともいえない幸せを感じます。
ちなみに、フラメンコの世界では、フラメンコダンサーを「アーティスト」と呼びます。フラメンコは、歌とギターと踊りが融合した芸術であり音楽。私たちは、自分自身が「ダンサー」であるという意識はあまりなく、「音楽家」だと思っています。
Q3. 仕事で大変なこと・辛いと感じることはありますか?
好きなことをしているので、辛いと感じることはありません! でも、フラメンコの世界が深すぎて「一生勉強してもたどり着けない……」と途方にくれてしまうことはあります。
企業のプロジェクトのように目標設定があるわけではないので、答えのないものと向き合う厳しさや葛藤を抱きながら、休まず追求を続けていくことは大変です。また、講師としては、スペイン人から吸収したものをどう翻訳して日本人に伝えるか、といったところが難しいですね。
デザイナーとして充実した日々を送る中、東日本大震災が起こって……
Q4. どのようなきっかけ・経緯でこの仕事に就きましたか?
フラメンコとの出会いは、美術大学でフラメンコサークルに入ったことです。当初フラメンコを仕事にするつもりはありませんでした。
大学を卒業した後は、電気機器メーカーでデザイナーとして充実した日々を送りながらも、1日2時間以上の自主練習と週2回のレッスンを継続していました。そんなある日、東日本で震災が起こり「いつ何が起こるか分からない、今本当にやりたいことをやろう」という気持ちが高まって、5年半勤めた会社を思い切って辞職。スペインに留学しました。
帰国後は、もともと所属していたスタジオで講師の活動を始めて、さまざまなアルバイトを掛け持ちしながら1年間。その後、独立して東京都内でクラスを開講しました。2度目となる現在の留学が終わった後もまた、講師としても活動したいと考えています。
Q5. 大学では何を学びましたか?
中学生の頃は、助産師である母を間近でみていたため、看護師になりたいと思っていました。高校生の時に公共広告に興味を持ち、美術大学のビジュアルデザイン科に進学しました。そこで学んだ知識は、フラメンコの舞台での動きや振り付け、メリハリのつけ方、衣装デザインや色彩選びなどにつながっていると思います。でも一番役に立っているのは、自分でチラシを作れることかなぁ!
Q6. 高校生のとき抱いていた夢が、現在の仕事につながっていると感じることはありますか?
正直に言うとありません(笑)。舞台に立ちたいと思ったこともありませんでした。
でも、「今しかできないことを、今やる!」というスタンスは高校生の時から変わっていません。これからまた別の道を選ばないとは限りませんが、生き方のスタンスだけは、きっとこれからも変わらないと思います。
泣いちゃうくらいフラメンコが好き!
Q7. どういう人がフラメンコダンサーに向いていると思いますか?
もちろん、フラメンコが大好きな人です。また、フラメンコは、自己と向き合い内側にあるものを表現する芸術ですので、孤独に耐えられる人でなければなりません。
フラメンコダンサーにとって、生きているうちに感じる喜びや悲しみ、悔しさなど、感情の全てが財産となり、踊りの魅力につながります。
だから、ポジティブな感情はもちろん、ネガティブな感情も大切なものとして受け止めます。泣きたくなったら泣いていい。悔しい時は悔しがる。早く立ち直ろうなんて思わなくていいと思います。
Q8. 高校生に向けたメッセージをお願いします
私が高校生で進学に悩んでいた頃、両親が離婚したこともあり、母親に地元の北海道に残ってほしいと懇願されました。でも、私はやりたいことを諦めたくなかったので、意志を貫いて金沢の美術大学に入学させてもらいました。
メーカーを辞めた時も、自分の好きなことを貫き通したことになります。高校生のみなさんも、後悔しない人生を送るために「好きなことはやれる」という気持ちを大切にしてほしいなと思います。
牛田さんの「フラメンコが大好き!」という気持ちはとても強く、インタビュー中に涙ぐむ場面も。苦労を苦労と思わないフラメンコを愛する気持ちと行動力、そして、それらを継続する圧倒的に強い心が印象的でした。
好きなことを仕事にするというのは、それだけ幸せでエネルギーがわいてくるものなのかもしれませんね。みなさんも、夢中になれる何かを探すことで、将来の仕事のヒントを見つけてみませんか?
【profile】フラメンコダンサー 牛田裕衣
写真提供:(1枚目)Toshiharu Kawajiri、(2枚目)Escuela de Carmen de las Cuevas
この記事のテーマ
「音楽・イベント」を解説
エンターテイメントを作り出すため、職種に応じた専門知識や技術を学び、作品制作や企画立案のスキル、表現力を磨きます。音楽制作では、作詞・作曲・編曲などの楽曲づくりのほか、レコーディングやライブでの音響機器の操作を学びます。舞台制作では、演劇やダンスなどの演出のほか、舞台装置の使い方を学びます。楽器の製作・修理もこの分野です。
この記事で取り上げた
「フラメンコダンサー」
はこんな仕事です
スペイン南アンダルシア発祥の民族舞踊であるフラメンコを、劇場やショーで踊る仕事。舞台のかたわら、教室を開いている人もいる。プロとして活躍するための特別な資格はないが、バレエの基礎が役立つ。また、発祥地であるスペインでの留学を経てプロダンサーになる人が多く、舞台経験の豊富なプロダンサーに師事して、音楽(歌、ギター)や振り付けの意味などフラメンコ全般の知識を深める人もいる。才能ある若手フラメンコダンサーを発掘し、スペインでの研修機会を与えるコンクールもある。