【シゴトを知ろう】ビオトープ管理士 編

みなさんは「ビオトープ」という言葉を聞いたことがありますか? 植物、昆虫や動物などの生物が生息する生態系のことを意味する言葉です。海や森などの地球規模の大きな生態系のことを指す場合にも使われますし、小さな池の中にアメンボがいることも生態系のひとつです。
今回は、私たちの身近にあるビオトープを守ったり、再生したりする工事を手がける「ビオトープ管理士」として活躍する靍田鈴子さんに、普段のお仕事についてお話を伺いました。
この記事をまとめると
- 生態系を守ったり、再生するための活動を行うのが主な仕事
- さまざまな生物が暮らしやすい生態系について、勉強を続ける必要がある
- 子どもはもちろん、大人にも生態系のことを教えることがある
一般職を経て、40代でビオトープ管理士の資格を取得
Q1. 現在のお仕事内容について教えてください。
私はビオトープ管理士として、公共の公園などの樹木の伐採や緑地の管理、また神奈川県内の小中学校へビオトープの出張授業をしています。環境への取組みの一つとして、“いきもの観察会”や木材の再生利用をする木工教室を開催したり、公民館などの公施設で、外来種を利用したワークショップなどを展開しております。
Q2. お仕事の中で、魅力ややりがい、楽しさを感じるのはどんなときですか?
いきものや自然には“絶対”という答えがない中で、子どもたちと一緒に、その過程を観察しながら、同じ目線で一緒に考えたり、発見したりできるところです。
Q3. 一方で、お仕事の中で大変さや苦労を感じるのはどんなときですか?
指定外来種であるオオキンケイギクの駆除を依頼された時がありました。オオキンケイギクは黄色い綺麗な花が咲く植物ですが、河川で近所のボランティアの人たちと駆除作業をしていると、「どうして花を摘んでしまうのか?」などと近所の人に言われてしまいました。オオキンケイギクは、最近になって指定の外来種になった植物なので、駆除しなくてはいけない植物だと知らない人が多いのです。こちらが生態系のために活動していても、それを悪くとらえてしまう人もいるので、そうならないように周知し、教育をするのに時間を使わなければ進まないことは大変です。また、湿原で土壌を耕すなど、体力的に大変なこともあります。でも、あまり苦労と感じたことはありませんよ。
子どもたちへ豊かな生態系を残したいと思ったのがきっかけ
Q4. ビオトープ管理士を志すようになったきっかけを教えてください。
社会人になってからは、事務職とプログラマーでした。その後、結婚をし、主人が造園や建物管理をする仕事だったので、その仕事を経理として手伝っていた関係で、一級造園管理士を取得しました。子育てする中で「自分が未来の子どもに残したい公園はどういったものか」と考えたときに、今の外来種ばかりが植えられた公園は違うと思い、ビオトープ管理士という職業を知りました。
いろいろな物があふれた世の中ですが、豊かさとは何不自由なくモノに囲まれているということではなく、多種多様な生態系が存在し、そこから命の恩恵を終わりなくもらい続ける知恵や技術、伝承できる力だと思います。それを次世代の子どもたちへつなげたかったんです。「お金さえあれば生きていける」のではなく、豊かな生態系の恩恵を分かち合えればと考えています。そのためには、永遠に尽きることない土壌基盤があってこそだと思ったのが目指したきっかけですね。
好奇心を持って考えることで、ほかのつながりが見えてくる
Q5. この仕事に就くために学んだことはありますか?
私の場合は、普通科の高校を卒業し、一般職の仕事を経てからビオトープ管理士の資格を取得しました。なので、特に専門的な分野の学校に行ったわけではありません。40代のときに、主人の会社をともに営み、帰宅後3人の子育てをしながら、毎日1時間ほど独学で集中して勉強しました。
Q6. 高校生のころはどんな夢を持っていましたか?
夢は数え切れないほど持っていました。数年前に地元で、タイムカプセルをみんなで掘り起こしたのですが、そこにはたくさんの言葉を覚えて世界中を歩きたいと書いてありました。人間って、小さな脳みその中で想定内の夢を考えていると聞いたことがあります。その明暗を分けるのは、諦めるか、諦めないかだと、常に思っています。
Q7. このお仕事はどんな人が向いていると思いますか?
好奇心旺盛な方でしょうか。「なぜ?」「どうして?」と思ったら、具体的に行動し、探求心がいっぱいある方だと思います。例えば、「昆虫はなぜ飛ぶのだろう?」「何を食べているのだろう?」「どこに卵を生むのだろう?」などと、好奇心を持って考えることで、ほかのつながりが見えてくると同時に、小さな昆虫の生態系での役割が見えてくると思います。
Q8. ビオトープ管理士を目指している高校生へ向けて、一言メッセージをお願いします。
向き合うのは自然です。少しの方向性で変化してしまう自然ですので、いろいろな方向性、たくさんの視点から、ときには試してみることが必要になってくる仕事ですが、その過程を冷静に判断するのも仕事だと思っています。そして、その過程もおもしろさの一つだと思っています。ぜひ、資格を取得して、次世代へつなげていってほしいです。
ビオトープ管理士は、生態系をつくりあげるとともに、生態系についていろいろな人に教える仕事でもあるのですね! 植物や昆虫、自然が好きな人には、たまらなく魅力的な仕事ではないでしょうか? ビオトープ管理士に興味を持った人は、さまざまなところで生態系のワークショップが開かれているので、そうしたところに参加してみてはいかがでしょうか?
【profile】公益財団法人 日本生態系協会 靍田鈴子
http://www.biotop-kanrishi.org
横浜環境保全緑化株式会社
http://www.y-green.co.jp/index.html
この記事のテーマ
「環境・自然・バイオ」を解説
エネルギーの安定供給や環境問題の解決など、自然や環境を調査・研究し、人の未来や暮らしをサポートする仕事につながります。また、自然ガイドなど、海や山の素晴らしさと安全なレジャーを多くの人に伝える仕事もあります。それぞれ高い専門性が求められる職業に応じて、専門知識や技術を学び、カリキュラムによっては資格取得や検定も目指します。
この記事で取り上げた
「ビオトープ管理士」
はこんな仕事です
「ビオトープ」とは、野生の植物や動物、微生物がお互いにつながりを持って生息できる場所を指す。ビオトープ管理士は、自然の保護・再生を目指すことができる、ビオトープの創出や保護ができる技術者。損なわれてしまった生態系を回復させるため、環境省などの中央省庁、地方自治体などが環境対策の一環として、ビオトープ事業に着目。その推進役として活躍が期待されている。ビオトープ管理士は大きく2つに分類され、プランニングをする「ビオトープ計画管理士」と設計・施工をする技術者の「ビオトープ施工管理士」がある。