気になる社会人にインタビュー!
第44回:漆器職人に聞いてみた10のコト!
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日本では、古来より祝いの席での食器などに使われてきた「漆器(しっき)」。朱色や黒のお椀を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか?
漆(うるし)の樹木から採れる樹液を使い、素材となる器にハケで何度も重ね塗りしながらつくる漆器は、熟練の職人の手仕事によって成せる工芸品です。現代では、モダン(今風)な漆器も多数つくられており、外国人からのニーズも非常に高まっているようです。
そこで今回は、漆器の産地として名高い福井県で、塗師(ぬし)として活躍する前田智子さんにお話を伺いしました!
この記事をまとめると
- 漆(うるし)を何度も塗り重る作業は、根気と集中力が必要
- 丁寧に、効率よく作業を進めていくことが大事
- 日本の食文化を支える漆器職人は、世界に誇れる職業
漆器学校を卒業後、研修所で学び、塗師として漆器づくりを始める
Q1.普段のお仕事について教えてください。
「私は、福井県鯖江市にある『土直漆器(つちなおしっき)』というところで、漆器職人として勤めています。主に、日本人の食卓には欠かせないお椀やお箸を製作しています。漆器とは、成形された木地や樹脂などに漆という木の樹液を用いて加工したもののことで、漆を塗っては研ぎの作業を何度も繰り返し仕上げていきます」
Q2.現在のお仕事に就くまでに、どのような勉強や経験を積まれてきたのでしょうか。
「大学卒業後は、会社勤めをしていましたが、常に心の片隅にあった職人になりたいという思いを実現するため、退職をして京都にある専門学校で漆器づくりの基礎を学びました。その後は、石川県輪島市にある研修所に入り、応用的なものをたくさん学ばせていただきました。
専門学校では、一つのものに丁寧に時間をかけ作品をつくりあげるという感じでしたが、仕事になるとつくる数が格段に増え、それをこなす技術が必要になってきます。しかし、ベテランの職人のみなさんが、『こればかりは数をこなすしかない』とおっしゃいます。今では私も、その通りだと実感しています」
Q3.お仕事の中で、魅力ややりがいを感じるのはどんなときですか?
「問題なく、漆器が無事に仕上がったとき達成感を感じます。また、時々イベントなどでお客様と接することがあり、その時に商品を具体的に褒めてくれたり、買ってくださったりしたとき、手間ひまかけた甲斐があったとしみじみと思います」
丁寧な仕事であるとともに、効率のよさも心がけて作業する
Q4.お仕事に取り組む中で、大切にしていることがあれば教えてください。
「丁寧にきちんとつくると同時に、数もこなさなければならないので、どうしたら効率よくできるかを考えながら作業しています。先生や先輩の職人さんから教わったことを基本にするのはもちろんですが、さらに自分でもいい方法はないか模索しています。ほかの分野の仕事を見たりしてヒントを得ることもあります。また、いつも時間を意識するようにしていて、何時までにいくつ終わらせると、自分の中で目標を立てています。その場合、きつめにノルマを設定しています」
Q5.お仕事の中で、一番の思い出や達成感のあったエピソードはなんでしょうか?
「同僚と一緒に、自分たちで一から企画したものを形にし、商品化させてもらえたことが印象に残っています。商品として売るにはコスト的に妥協せざるを得ない部分もあり、限られた条件の中でつくり上げていくことの難しさと楽しさを両方味わえました。また、それを買いにお客さんがわざわざ足を運んできてくれた時はとてもうれしかったです」
作業に使う道具のメンテナンスが仕事の良し悪しを左右する
Q6.今後につながる教訓となったできごとがあれば教えてください。
「刃物を使う作業で、横着してしまい、切れ味の悪いものでやっていたところ、仕事がはかどらず、観念して切れ味の良いものに変えた途端、予想していた以上にペースがあがりました。その時に先生がよく言っていた『道具が仕事をする』という言葉がふと頭をよぎり、道具のメンテナンスは職人の必要最低限の仕事だと痛感しました」
Q7.漆器職人に向いている人や、必要な知識について教えてください。
「まず、漆器職人になるために必要な知識としては、漆は触れると大体の人がかぶれるということです。私もかぶれますが、最初の症状が強かっただけで、今では免疫力がついたのか症状も弱いです。専門学校の時もみんな同じような感じで、最初は恐怖におののいていましたが、一度かぶれると慣れてしまい平気な顔で過ごしていました。また、作業工程も多いです。なので、それでもやる気があり、根気強い人が向いていると思います」
Q8.お休みの日はどのように過ごしていますか?
「音楽を聴きながらドライブして気分転換しています。また、私はホームセンターが好きでよく行くのですが、思いがけず仕事に応用できそうな道具を発見することもあり、わくわくしながら回っています」
Q9.高校時代はどのように過ごしていましたか?
「オーケストラ部に所属し、コンクールや演奏会に向けて練習に打ち込んでいました。楽器はヴィオラを担当していました。弦楽器は、それぞれのパートで人数も多いため、注意されても自分は大丈夫と思い込んでしまうこともあります。漆器を作る上でも、仕上がりが悪かった場合に他の人がやった工程やもののせいにしたい邪念が出てきますが、まずは自分に落ち度はなかったか思い返して少しでも要因があるなら次回の課題にするようにしています。それは高校時代の経験が生きているのではないかと思います。
また、今振り返って勉強しておきたかったことは、英語ですね。日本に来た外国の方に、漆器のことをうまく伝えられずもどかしい思いをしたことがあり、もっと英語を勉強しておいたらよかったと思います」
Q10.漆器職人を目指している高校生へ向けて、一言メッセージをお願いします。
「日本の食文化に欠くことのできない漆器をつくるということは、とても誇りの持てることだと思います。不安にかられることもあるかと思いますが、この仕事を続けていくにためにもまずは楽しみながら取り組んで漆を好きになってもらいたいです」
塗師という仕事は学ぶことも多く、根気と集中力が必要なお仕事なのですね。それでも、自分がつくった漆器が人々の日々の暮らしを彩っていることを思えば、自然と頑張れることなのかもしれません! 道具や工程など、伝統を守りつつ自分なりに工夫ができることも職人ならではの楽しみの一つなのかもしれませんね。
漆器職人の仕事に興味を持った人は、まずは身近にある漆器をよく観察したり、実際に遣ってみたりすることで、職人の仕事をきっと肌で感じられるはずですよ。
【取材協力】
日本漆器協同組合連合会・越前漆器協同組合
http://www.shikki.or.jp
土直漆器
http://www.tsuchinao.com/history.html
この記事のテーマ
「デザイン・芸術・写真」を解説
デザインは、雑誌や広告など印刷物を制作する「グラフィックデザイン」、雑貨やパッケージなどの「プロダクトデザイン」、工芸や日用品などの「装飾デザイン」といった職業分野に分かれます。アートや写真を仕事にする場合、学校で基礎的な知識や技術を身につけ、学外での実践を通して経験やセンスを磨きます。
この記事で取り上げた
「漆器職人」
はこんな仕事です
漆器とは、漆の木から採れる樹液を塗った美しい器のこと。代表として「輪島塗」や「会津漆器」「越前漆器」などが挙げられる。漆器作りには、器の素地製造、下地、漆塗、蒔絵、沈金などの工程がある。それぞれ分業制で行われ、ほとんどが職人の細かな手作業になる。漆器工になるには、漆器関連の事業所に就職するのが一般的だが、産地によっては徒弟制度を導入し、弟子を育成しているところもある。漆器は、日本が世界に誇れる工芸品の一つであり、漆器工職人はその伝統文化を後世に伝える大切な役割も担っている。