気になる社会人にインタビュー!
第26回:畜産農業者に聞いてみた10のコト!

畜産農業とは、牛、ブタ、ニワトリなどを育て、肉や牛乳を生産する仕事です。中でも、牛乳や乳製品をつくることを「酪農」といいます。酪農は、牛の世話をして成長を見守ることができる、動物好きであればきっと興味が持てる仕事です。
そこで今回は、北海道広尾郡の「有限会社 カネソファーム」で酪農を営んでいる金曽秀則さん(24)に、お仕事内容について詳しくお話を伺いました。
この記事をまとめると
- 搾乳や餌やり、牛の観察、畑作業が、「酪農」の主な仕事
- 牛は、素直な性格をしている。人間が世話をしたことに対して、恩を返そうとする
- 酪農でプロになるには、「動物が好き」という気持ちが大事
高校から専門的に酪農を勉強。カナダの牧場では、1人で3人分の仕事をすることも
Q1. 普段のお仕事について教えてください。
「北海道の十勝にある『有限会社 カネソファーム』という牧場で、酪農をしています。親牛500頭、子牛400頭、合計900頭の牛を育てています」
Q2. 1日のお仕事の大まかな流れを教えてください。
大まかな流れは、2パターンあります。
・パターン1
3:30〜7:00 搾乳(乳しぼり)
9:00〜13:00 牛の餌やりといった世話、畑作業
13:00〜15:30 休憩
15:30〜17:00 見回り、搾乳
・パターン2
9:00〜13:00 牛の餌やりといった世話、畑作業
13:00〜16:00 休憩
16:00〜20:30 見回り、搾乳
Q3. 現在のお仕事をはじめるまで、どのような勉強をしてきたのでしょうか。
「高校の酪農科学科で専門的な勉強を重ねた後、酪農を専門的に学べる大学へ進学しました。大学では、カナダのトップブリーダーの方の講演会があり、とても感銘を受けました。その方の牧場では、ホルスタインの父親にあたる種類の牛を育てていて、牛はもちろんのこと、牛舎のレベルもすごく高い。だから、僕は教授を通して『ぜひ、そちらの牧場で働きたい』と伝えてもらったんです。そのことがきっかけで、実際にカナダで働くことになりました」
「カナダでの仕事はすごくキツかったです。渡航してすぐ、ボスの夫妻が『あなた一人で、全ての牛の世話をしなさい』と1週間メキシコに旅行に行ってしまったり(笑)。でも、僕の仕事ぶりをすごく評価してくれていて、『もっと、長く働いてほしい』と言ってくれたので、当初の予定を延長して、1年間カナダ滞在することになったんです。本当に貴重な経験を積むことができました。ちなみに、僕が仕事を辞める際に、その牧場は後任の従業員を一気に3人雇っていました。僕は3人分の仕事を1人で任されていたということですね(笑)」
酪農の仕事は、牛一頭一頭をしっかり観察することが大事!
Q4. お仕事の中で、魅力ややりがいを感じるのはどんなときでしょうか?
「肉牛を育てる仕事であれば、飼っていた牛はいずれいなくなってしまいます。だけど、酪農の場合は、牛を大事に育てれば、長く一緒にいることができる。『たい肥を入れて土作りをする → そこに生えた草を牛が食べる → 牛乳をしぼる → 乳牛が子どもを産む → 育てる』というサイクルがくり返されるのは魅力的です」
「あと、牛って素直なんです。敷き藁(しきわら)をまめに交換したり、しっかり観察したりしてあげると、病気をしなくなって、いい牛乳を出してくれるんですよ。でも、管理が雑だと、調子を悪くしてしまいます。こちらが手をかけた分だけ、恩を返そうとしてくれる動物なんですね」
Q5. お仕事の中で、一番の思い出を教えてください。
「ミルクの飲みが悪く、弱々しかった子牛が、大きくなって子どもを生んだときは感動しました。成長を見守ることができてうれしかったです」
Q6. 逆に、失敗談や今後につながる教訓となった出来事があれば教えてください。
「初めて子どもを生む若い牛は、出産に失敗しやすいんです。こちらが、1時間目を離したら、死産になってしまい、助けられなかった……ということもありました。ですので、よく牛を観察して、少しの異変に気づけるように目配りをしていますね。出産中に様子がおかしいときは、すぐに獣医さんを呼ぶようにしています」
Q7. お仕事に取り組む中で、大切にしていることは何でしょうか?
「牛、一頭一頭をしっかり観察する『個体管理』に力を入れています。以前いたカナダの牧場は、個体数が30頭と少なかったので、『この牛には、この餌を与える』といった考え方が徹底されていました。ですので、個体管理の重要性を学ぶことができたんです。僕の牧場は、カナダの牧場に比べると、牛の数が多いですが、決して異変を見逃さないようにしています」
未経験でも、動物が好きという気持ちがあればプロになれる!
Q8. 高校時代はどのように過ごしていましたか?
「高校では、1年生は全寮制でした。早朝や放課後には牛舎の当番があり、そこで実習をしました。2~3年生になると、寮に入る必要はなくなったんですが、1~6限のうち、1日2時間は専門科目を学んでいました。実習も行いつつ、牛の病気や餌・栄養、牛乳の加工といった酪農に関する座学も受けました」
Q9. 高校時代にもっと勉強しておきたかったことがあれば教えてください。
「英語をもう少し勉強しておけばよかったですね。カナダに行ったとき、だいたい現地の人と話は通じていたのですが、英語ができれば、もっと深いコミュニケーションが取れたと思います」
Q10. 「畜産農業者」を目指している高校生へ向けて、一言メッセージをお願いします。
「畜産(酪農)の仕事は、外から見ると『厳しい仕事』というイメージがあるかもしれません。実際、そういう側面もありますが、未経験でも動物が好きで、しっかり仕事に取り組めれば、半年でプロになることができるんです。あと、企業の形態をとっている牧場であれば福利厚生もしっかりつきます。いくら仕事が楽しくても、仕事外での生活にゆとりがないとやっていけませんもんね。僕も、働く人の環境をもっと整えられるように努力しています。この業界はもっと若い世代の力が必要です。だから、高校生の皆さんにはどんどん畜産(酪農)の仕事にチャレンジしてほしいです」
職業によっては、一人前になるまで、3年、5年、10年以上と長い年月を要するものもあります。そんな中、動物が好きで、真面目に仕事ができれば半年でプロになれる酪農の仕事は魅力的といえるのではないでしょうか。動物園や牧場で動物とふれあうのが好きな人や、ペットの世話が楽しいと感じる人は、酪農の仕事にチャレンジしてみるといいかもしれませんね。
【取材協力】北海道帯広農業高等学校
この記事のテーマ
「動物・植物」を解説
ペットなど動物や観賞用の植物に関わり暮らしに潤いを提供する分野、食の供給や環境保全を担う農業・林業・水産業などの分野があります。動物や植物の生態や生育に関する専門知識を身につけ、飼育や栽培など希望する職種に必要な技術を磨きます。盲導犬や警察犬、競走馬、サーカスの猛獣などの調教・訓練や水族館や動物園で働く選択肢もあります。
この記事で取り上げた
「畜産農業」
はこんな仕事です
私たちの食生活を支えている牛や豚、鶏などの家畜を育て、食肉用に販売する仕事。育てる家畜の特性をよく知り、成長をコントロールする。例えば肉用牛の場合、自分のところで生まれた子牛を生後9カ月頃まで育てて出荷する「繁殖農家」と、その子牛を約30カ月前後まで大きく育てる「肥育農家」に分かれる。どちらの農家でも、牛の健康状態を把握して生育環境を整え、できるだけストレスをかけずに育てることが大切。牛は暑さ寒さに弱いので、牛舎の温度調整は不可欠である。