宇宙でも死ななかった無敵生物・クマムシの謎!

この記事をまとめると
- どこにでも生息しているクマムシ。実は極限環境でも死ぬことのない最強生物
- 宇宙空間でも生存できる耐性を持ったクマムシ、その強さのヒントは乾燥耐性に!?
- クマムシの生存戦略の仕組みの解明が医療分野を中心に期待されている
最強の生き物「クマムシ」
みなさんは「クマムシ」を知っていますか? 大きさは1mmにも満たない4対の脚を持った生物で、市街地、深海、高山などに幅広く生息しています。ムシと名がつくものの、昆虫類ではなく緩歩動物に属します。このクマムシ、最近テレビなどで“最強動物”としてよく紹介されます。
そんなに小さくて何が最強なの? と思う方もいるでしょう。実は、クマムシ最強説は彼らの生態にあります。陸生のクマムシの多くは乾燥耐性を持ち、周囲が乾燥すると脱水して縮こまり、乾眠といわれる状態になります。この状態では、体内の水分量は数%まで低下し、生命活動は見られません。ですが、驚いたことに水を与えると速やかに活動を再開するのです。
それだけではありません。乾眠状態のクマムシは、放射線を浴びても死なず、マイナス273〜151℃の温度の中でも死にません。空気がない状態(真空)でも、75,000気圧でも死にません。化学物質に触れても、電子レンジに入れてチンしても死にません。
宇宙空間にも耐えられる
こんな最強のクマムシですが、その耐性から、宇宙空間でも耐えられるのではないか、と指摘され、2007年秋にクマムシの宇宙曝露(ばくろ)実験が行われました。実験は、穴の開いた箱にクマムシを入れて宇宙空間に10日間放置するものでしたが、クマムシは何の問題もなく生存していました。ちなみに、宇宙空間に曝(さら)されて生存した初めての動物だそうです。
普通、動物の耐性というのは、その生息環境に由来します。寒い地域で育った人は寒さへの耐性が強く、熱帯地方で育った人は暑さへの耐性が強くなります。しかし、クマムシの耐性能力は、生息環境から考えても明らかに過剰といえます。クマムシがどのようにしてその耐性能力を手に入れたかは研究途上ですが、その強さのヒミツは「乾燥耐性」にあるのではないかといわれています。
クマムシの生命力のヒミツを解き明かすのは生物学!
実は、クマムシの生存戦略のメカニズムは、現在、医療や産業のさまざまな分野から期待されています。
たとえば、乾眠の仕組みがわかれば、動物の組織や細胞を保存できる仕組みが明らかになるかもしれません。生命活動を示さないクマムシが生命活動をはじめる過程がわかれば、人工的に生命活動を生み出す仕組みもわかるかもしれません。放射線耐性からは、損傷したDNAの修復能力や抗酸化能力の仕組みが明らかになり、がん予防やアンチエイジングに役に立つ可能性もあります。
こうした生命の謎に科学的な手法で挑むのが生物学です。分子や細胞レベルの細かな視点から、その生態系や進化まで、広い範囲で「生命とは何か」を研究していきます。
地球上に存在する生物の常識をはるかに超えたクマムシ。生物学がクマムシのひみつを解き明かすとき、もしかしたら、私たちの健康をクマムシが助けてくれるのかもしれません。
この記事のテーマ
「農学・水産学・生物」を解説
私たちは、他の生物から栄養をもらって生活しています。人口が増え、自然環境が悪化する中、食料を安定して確保し、自然から栄養をもらい続け、世界の飢餓問題に対応するには、農業、林業、水産業などの生産技術の向上が欠かせません。動植物や微生物などさまざまな生物の可能性を発見する研究も重要です。
この記事で取り上げた
「生物学」
はこんな学問です
マクロな地球の生態系からミクロな細胞の世界まで、さまざまなレベルで起きている生命現象を実験・観察することによって研究する学問である。人間を含めた動物・植物・微生物など、あらゆる生命体が研究対象となる。主な研究分野としては、タンパク質を中心にした生体内の高分子の機能をその構造から研究する「構造生物学」、生態系の構成要素である生物と環境の関わりを研究する「環境生態学」などがある。
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